有限会社 大松染工場
(2010年4月取材)
墨田区から江戸小紋・江戸更紗の伝統美を発信。

日本の伝統工芸をもっと生活の中に、次の世代にも伝え続ける。
クラシックとモダンを融合させながら、江戸小紋・江戸更紗の発展を支える大松染工場。


有限会社 大松染工場
代表取締役
中條 隆一さん
日本が誇る伝統工芸である、江戸小紋と江戸更紗を専門に染める有限会社 大松染工場。 自社工場のそばには、年間通して国内外のツアー客で賑わう工房ショップ併設の「江戸小紋・江戸更紗博物館」があり、日本の伝統美を発信しています。 代表取締役の中條隆一さんは、腕の良い職人を率いていた初代から会社を引き継ぎ、時代のニーズにあわせながら、事業を発展させてきました。
今回は、平成25年春の褒章「黄綬褒章」を受章された中條さんに、 自社工場と博物館を案内していただきました。
慎ましやかな江戸小紋、オリエンタルな江戸更紗

江戸小紋とは、とても細かい文様が全体に染められている布、もしくはその布で作られた着物のことで、慎ましやかな美しさがあり、遠目には無地に見えます。 もともと小紋は、武士の礼装である裃(かみしも)に好んで着られ格式が高く、江戸時代後半から庶民にも広がりました。 江戸時代は「贅沢禁止令」が断続的に発令。 その情勢の中、極小世界を追求した小紋独特の文様が生み出されていきました。
江戸更紗とは、鳥、人物、草花などを図案化した文様を多彩な色で染めたエキゾチックな布です。 発祥国のインドから海のシルクロードを渡って、室町時代に日本に上陸。 渡来品として珍重されていましたが、江戸時代になると、日本人も型染技術を駆使して異国情緒あふれる更紗を染めるようになり、江戸更紗が確立されていきました。

さまざまな布に染められる技術。
多彩な色を出せる秘訣は秘伝の色配合帳


江戸更紗の配色の見本
また、歴代の職人さんがコツコツと記録した門外不出の色配合帳があり、それをもとに調合していくそうです。手書きの分厚い配合帳は何冊もあり、何人もの職人さんが書き記しているので筆跡もさまざま。
「細かく書いてあるものもあれば、閃いたことだけを書いているものもあり、読み解くのに時間がかかることもある」と笑いながら中條さんは言います。
息をのむ緻密な匠の技。
職人育成の仕組み化に成功

訪れた日は、数人の職人さんが生地に「型付け」をしているところで、作業場は凛とした雰囲気。 型付けは、生地に型紙を置き防染糊をヘラで捺染する作業で、染め上がると防染糊で染められた部分が白抜きされ、美しい文様が浮かび上がります。
この型紙は一反約13mの生地に対し長さ30㎝程度で、一反に糊を置くには数十回も型紙をズレることなく送る必要があり、難しく最も神経を使う作業だそうです。
以前は一人前の職人になるのに10年以上はかかると言われていました。 大松染工場では、職人の勘所を養うことはそのままに、工程を仕組化させることに成功、一人前に育成できる環境を整えています。

生地に「型付け」をしている中條康隆さん
アイディア商品の数々。
江戸小紋ワイングラスマーカー、皮革製品にも江戸更紗!

工場を後にして、江戸小紋・江戸更紗博物館へ。 お出迎えは博物館トレードマークの赤富士の壁画! 迫力満点のこの絵は、中條さんが愛してやまない葛飾北斎「富嶽三十六景」の「凱風快晴(通称:赤富士)」を模して創られています。
1階のショップコーナーでは、江戸小紋や江戸更紗のブラウス、ネクタイ、手ぬぐい、ハンドバッグなどが並びます。大松染工場では、皮革に江戸更紗を染色した小物も商品開発、人気を博しています。 三代目の康隆さんがデザイナーとコラボレーションして商品開発した、江戸小紋ワイングラスマーカーもあります。 この作品は、2018年、東京都および東京都中小企業振興公社推進の「東京手仕事」に応募 。全144アイテムの応募作品の中から、普及促進支援対象(10点のみ)として選ばれました。

江戸小紋のワイングラスマーカー

皮革製品に染められた江戸更紗の文様
斬新なデザインと伝統に捉われない色あわせ。
父と息子、それぞれの個性が光る


畳敷きの2階では、大松染工場の反物を実際に手に取ることができます。
隆一さんと康隆さんのオリジナルデザインも多数あります。 レンコンやワイングラスをデザインした江戸小紋や、ペパーミントグリーンの江戸更紗など、ハッと目を惹く着物があります。
隆一さんは、常日頃から目についたデザインをジャンルを問わずスクラップ。今もなお尽きぬインスピレーションは、こうした努力の賜物なのでしょう。 また、江戸更紗の渋い色調の伝統を打ち破った、 淡い色の江戸更紗は康隆さんの作で、「お客様のご要望から生まれました」と康隆さん。 こうした斬新なデザインの反物は数々の賞を受賞し、広く実力を認められています。

2階の展示商談室では、実際に手にとってご覧いただけます。
数多くの賞を受賞された貴重な作品もご覧いただけます。
富嶽三十六景シリーズの完成がライフワーク。
常に新しいものへ挑戦を

最後に、今後の目標をお二人にお聞きしたところ、「富嶽三十六景シリーズを完成させることと、伝統工芸の普及に務めること」と隆一さん。 「常に新しいものに挑戦していきたいですね」と康隆さん。
お二人のお話から、仕事に対する誇りと、仕事を心から楽しまれているご様子、日本の職人さんたちが受け継いできた伝統を、次世代へ継承していく強い意志を感じました。 事業という側面だけでなくスピリットまでも、初代、二代目、三代目と承継されているようでした。
会社概要


有限会社 大松染工場
東京都墨田区八広2-26-9
http://edokomon-daimatsu.com
江戸小紋・江戸更紗博物館
東京都墨田区八広2-27-10
電話:03-3611-5019
開館日:月曜日〜金曜日(祝日除く)
開館時間:13〜17時
※土曜日は3日前までに予約の方につき開館 12〜17時
染体験教室(要電話予約)
ご自分で染めたランチョンマットをお持ち帰りいただけます!
開催日時:月曜日~金曜日(祝日除く) 13:30〜15:30
人数:2〜20名
料金:おひとり様5,000円